playback umie
2001年暑い夏だった。僕は汗まみれになりながら、北浜の倉庫にいた。 北浜に事務所の移転を決断してからの僕は、毎日ここに来てはレイアウトを考えたりしていた。荒れ果てた倉庫の中は手探り状態。今のumieからは想像できないほど、何十年と人の手の掛かっていないところだった。当時はリノベーションなんて言葉は無かったし、僕は知らなかった。僕は一体何をしようとしていたのだろうか? 自分の思うデザイン、広告を作りたくて、柳沢広告制作室を立ち上げたのが1996年。スタッフ一名と僕と小さな広告制作室でした。仕事は忙しかったが、楽しい時代だった。怖いぐらい公私共に順調だった。今を思えば、僕は本当の苦労を知らずに、デザイナーとしてやれていた。 だがある日を境に、僕に悲しい出来事が重なってやってきた。バブル後遺症か取引先の倒産、十年近く続いていたクライアント、企業の業績悪化。加えてスタッフの病気が発覚。対処の間もなく、仕事の流れは悪くなっていた。景気の悪さは広告関係の人事をも悪くし、僕の知り合いも何人か業界を去っていなくなってしまった。さらに追い討ちをかけるような制作費の低下は、仕事の質を変えてしまった。 僕の生きる道は残されているのだろうか、僕がしてきたデザインなんてなんの役にもならないものだったんだ。やる気を失いかけてた僕はいろんなところへ出かけたりして自分をごまかしていたが、僕の心にふつふつと何かしなくてはとの思いがつのっていた。 僕の生きる道、デザインをもう一度やり直そうと思った。過去を忘れ、今までのスタイルを捨てることから、自分の再生が始まるんだと信じた。狭い業界からはみ出して、新しいデザインの有り方を見つけること。もっとデザインを身近に感じてもらえる場所作り。 北浜の倉庫とは、そんな時に偶然に出会った。ここを自分の働き場所と決めた一瞬だった。その年は僕にとって暑い夏だった。当ての無い僕の新しい始まりでした。この写真を見るたびに、僕の心は落ち着く。先を恐れず、まず動く。動いて考えて、また動く。 この繰り返し。やがてこの場所はumieという名のカフェになった。 あれから7年、僕はまだデザインの現場にいる。また暑い夏が来る。 木曜日はみんな徹夜、事務所で仮眠。今日提出のデザインをぎりぎりまで粘ってやりあげた。本質を描くんだよ。机に並んだデザインを眺めてはやり直す。新しいことを描くことだけがデザインではない。ものを見つめ、人を観察し、過去、現在、未来を思ってみる。削いで、削いで、残ったもの。それは古くて新しい発見でした。 プレゼンテーションが終わったその夜、眠気とともに心地よさが僕を誘う。 |