何かと何かが存在すれば、その間にも何かが存在するのではないか、そんな事を僕は常日頃考えています。それは自分と街であったり、国と国、人間と動物、男と女、自分の内面と外面等々どんなものでも構いません。例えば林檎が2つ並んでいるだけでも構わないのです。一見何も存在しないようでいて確かにそこにある、幽霊のような、香のような、そんな儚さこそが世界を作り出す重要なキーワードのような気がするのです。そんな煙のような物事の中で、最もポピュラーであろう「恋愛」をテーマにこのアルバムは作られました。「恋愛」は、漆黒の闇に浮かぶ花弁のように妖艶で官能的で、それでいて壁に映る影のように不確かで謎に満ちています。僕が考えるテーマには打って付けです。しかし、今改めて聴きなおせば、その「恋愛」というテーマは如何様にも置き換え可能なようです。それは「人生」であり「虚無」であり「夢」であり、「小さな敗北」や「僅かな希望」でもあります。誰もが抱えている、どうしようもなく冷たく、それでいて脈打っている小さな塊の事なのです。この銀盤を手にした皆さんと、銀盤との間にも何かが産まれることを祈りつつ、温度の無い僅かな熱のようなものが貴方の心の塊を少しでも燃やしてくれれば幸いです。